【美術】「怖い絵」で人間を読む/中野京子
¥1,155
2011年53冊目
【要約】
「怖い絵」シリーズで有名な中野京子氏のNHKで放送された番組「「怖い絵」で人間を読む」を加筆修正したのが本書。
本書は33点の絵画からそれぞれの絵が描かれた歴史的背景、作者の思惑を明らかにした本です。
一見怖く見えそうにない絵であっても、
「なぜこんな背景なのか?」
「なぜこの人はこんなうつろな目をしているのか?」
「これは誰なのか?」
など、単に見ただけではわからないところを詳しく説明してくれています。
今回は、表紙にもなっているディエゴ・ベラスケス「フェリペ・プロスペロ王子」を簡単に紹介してみます。
17世紀のスペイン・ハプスブルク家に君臨したフェリペ4世の嫡男フェリペ・プロスペロ王子の2歳の時の肖像画です。
この絵を見て女児と思った方も多いと思いますが、実は王子というぐらいですし、男児です。
では、なぜ女児の服を着ているのでしょうか?また、服には鈴が付けられてます、なぜでしょうか?
また、立ってはいますが、椅子にかけた手はくたっとして力ないように置いていますし、顔はどこかはかなげで現世から離れたような顔にも見えます。
これはまず、ご存じの方も多いですが、スペイン・ハプスブルク家は後継者問題で何度も近親婚をしており、病弱な人が多かったのです。フェリペ・プロスペロ王子も例外ではなく、父はフェリペ4世、母はフェリペ4世の姪、マリアナとの子でした。
生まれつき病弱なフェリペ・プロスペロ王子は後継者としてなんとしても、生きていてもらわなくては困るということで、当時経験的に知られていた「女児は男児よりも死亡率は低い」ということから女児の服を着せることで死の悪魔の目を欺こうとしていたからみたいです。また、鈴は「魔よけ」のためとも言われています。
顔がどこかはかなげなのも、死を予感させたものではないでしょうか。
実際にこのフェリペ・プロスペロ王子はこの2年後、4歳の若さでなくなっています。
このように、一見かわいらしい子供の肖像画に見えますが、裏を知るとゾクっとする部分があり、美術の深さが感じられます。
このほかにも以前に紹介した誰も知らない「名画の見方」にもあったベラスケス「ラスメニーナス」やゴヤ「わが子を喰らうサトゥルヌス」などが紹介されています。
私のように美術を知らない方もわかりやすく紹介してくれているのでぜひ一読ください。
【個人的総合評価】
★★★★★